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婚姻ダンスから出産

サソリにはオスとメスがいますが、厳密に言うと「交尾」はしません。つまり、オスとメスの交尾器どうしを合わせるような行動をとることはありません。サソリのとる行動は「交接行動」「交配行動」と呼ばれます。

サソリの婚姻ダンス
(サソリの婚姻ダンス。左がオス、右がメス。)

サソリの婚姻ダンス promenade à deux (プロムナード・ア・ドゥ、2人の散歩)

サソリのオスは精包 (spermatophore) という精子の入った袋状構造を生殖口から吐き出します。そして、その精包をメスが卵巣内へ取り込むことで受精します。サソリのオスとメスが精包の受け渡しを行う際にとる行動はサソリの婚姻ダンスとしてよく知られています。

1. オスとメスが向かい合い、オスが触肢でメスの触肢をつかんで後ろへ誘導していきます。
2. メスが暴れる場合は、オスが鋏角でメスの鋏角をつかむこともあるそうです。
3. オスは櫛状板で地面を探り、良い場所が見つかると、生殖口から精包を地面に吐き出します。
4. オスが引っぱって、メスが精包の上まで来ると、メスは生殖口から精包を取り込み受精します*1

上の動画では、右側の体が小さく触肢をつかんでいる方がオス、左側の体の大きい方がメスです。1分23秒辺りでオスの体の下に、一瞬だけ白く糸を引くようなものが見え 、すぐにその上にメスが覆いかぶさります。オスが精包を吐き出した瞬間でしょう。その後、1分57秒頃に精包の受け渡しを終え、メスの左側から精包が登場します。精包は地面に貼り付き、立っている様子がわかります。

サソリの出産

サソリは「産卵」しません。サソリは胎生で、母親の体内で卵の成長 (胚発生) が進行し、若虫 (わかむし) を出産します。受精から出産までの妊娠期間は、種によって2ヶ月から22ヶ月と様々ですが*2、キョクトウサソリ科のサソリは平均して5ヶ月程度、それ以外の科のサソリではそれ以上の期間となり、キョクトウサソリ科では妊娠期間が短い傾向があるようです*3。ダイオウサソリ (Pandinus imperator) は約7ヶ月、オブトサソリ (デスストーカー, Leiurus quinquestriatus) は約5ヶ月、マダラサソリ (Isometrus maculatus) は2.5ヶ月程度のようです。

出産に先立って、母親は体の前部分 (前体や中体) をもち上げ、地面との間に空間をつくります。そして、第1・2脚を体の内側に曲げ、生殖口から産まれ出た若虫を受け止める姿勢をとります。第1・2脚でつくられたこの姿勢はbirth basket (直訳:出産バスケット)」と呼ばれます (下の動画)*2
若虫は1個体ずつ順に産まれますが、出産の間、母親はbirth basketの姿勢をずっと保ち続けます。


ダイオウサソリの出産 (1分39秒~)

通常1度の交配行動 (婚姻ダンス) で1度だけ妊娠・出産します。しかし、種によっては、メスが卵巣内に貯精嚢 (spermatheca) という構造をもち、貯精嚢に精子を蓄え何度かに分けて使うことで、数回妊娠・出産を繰り返す種もいます*2

出典

*1 Rubio, MS (2008) Scorpions: Everything About Purchase, Care, Feeding, and Housing (Complete Pet Owner's Manual), Barrons Educational Series Inc.

*2 Lourenco, WR. (2002) Reproduction in scorpions, with special reference to parthenogenesis, European Arachnology 2000 (Proceedings of the 19th European Colloquium of Arachnology), 71-85.
The European Society of Arachnologyウェブサイトより閲覧可

*3 Polis, GA. (ed) (1990) The biology of scorpions, Stanford University Press.

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