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サソリの蛍光現象① 蛍光の特徴と蛍光物質

サソリの蛍光現象は1954年に初めて報告されて以来*1*2、多くのサソリ研究者や愛好家を魅了してきました。現生サソリ目のほぼ全ての種が蛍光すると考えられています (例外については「蛍光しないサソリ」をご覧ください)。

蛍光反応の特徴として、2齢以降のサソリは蛍光しますが、1齢若虫では蛍光しません。また、脱皮直後のサソリも蛍光しないか、非常に蛍光が弱いのに対し、残された脱皮殻は蛍光反応を示します。
さらに、サソリの死骸でも蛍光し、保存状態が良ければ、200年経っても蛍光反応を示すそうです*3


(蛍光する母親と蛍光しない1齢若虫)

サソリの蛍光現象はフォトルミネセンス (Photoluminescence)*4 と呼ばれ、物質がある波長の光を吸収した後、別の波長の光を放出 (発光) する現象です。単純な反射とは異なります。光を吸収する過程を「励起 (れいき)」と言い、吸収する波長の光を「励起光」と呼びます。
サソリの蛍光反応の場合、約350nmの紫外線 (紫外光) によって励起され、約500nmの青色~緑色の光を放出します。

サソリの蛍光反応の模式図
(サソリの蛍光反応の模式図)

ダイオウサソリ (Pandinus imperator) では励起光の最大波長が365nm、放出される (蛍光する) 波長の最大値が約500nmとなるようです (下図)*4

ダイオウサソリの励起スペクトルと蛍光スペクトル
(ダイオウサソリの励起スペクトルと蛍光スペクトル、Fasel et al., 1997*4 より作成)

サソリの蛍光物質は、外骨格 (外皮) の最外層 (約4μmの厚さの部分) に集中しているそうです。
現在までのところ、蛍光物質としてはβ-カルボリン (β-carboline)ヒメクロモン (Hymecromone) という2つが確認 (同定) されています*1*5

β-カルボリンの構造式 ヒメクロモンの構造式
(左:β-カルボリンの構造式、右:ヒメクロモンの構造式)

β-カルボリン (別名:norharman) はアルカロイド (窒素原子を含み、アルカリ性を示す有機化合物で、多くは有毒) であり、様々な植物や動物でみられる物質だそうです。

一方、ヒメクロモン (別名:4-methyl-7-hydroxycoumarin、4-methylumbelliferone) はクマリン (coumarin) という化合物の一種であり、植物に代表される成分で、菌類やバクテリアにも含まれますが、動物では非常に珍しく、節足動物ではこれまで発見されていないそうです*1

β-カルボリンのアルコール抽出液は約350nmの波長で励起され、約450nmの蛍光を放出するそうです*5。また、ヒメクロモンの抽出液は409.5nmの波長で励起され、441nmの蛍光を放出するそうです*1
サソリの蛍光と波長が異なりますが、これはサソリの外皮に存在する状態と抽出液とでの違いによるものであったり、2種類の化合物の反応が合わさった結果かもしれません。

出典

*1 Frost, LM., DR. Butler, B. O'Dell and V. Fet (2001) A coumarin as a fluorescent compound in scorpion cuticle. In Fet, V. and P.A. Selden (eds.), Scorpions 2001: In Memoriam, Gary A. Polis, British Arachnological Society, Buckinghamshire, pp.365-368.

*2 Lawrence, RF. (1954) Fluorescence in Arthropoda, Journal of the Entomological Society of South Africa, 17:167-170.
Sabinet African ePublicationsウェブサイトより閲覧可

*3 Fet, V., ME. Soleglad and SL. Zonstein (2011) The genus Akrav Levy, 2007 (Scorpiones: Akravidae) revisited, Euscorpius, 134:1-49.
Marshall Digital Scholar より閲覧可

*4 Fasel A., P-A. Muller, P. Suppan and E. Vauthey (1997) Photoluminescence of the African scorpion "Pandinus imperator", Journal of Photochemistry and Photobiology. B, Biology, 39:96-98.
Archive ouverte UNIGEウェブサイトより閲覧可

*5 Stachel, SJ., SA. Stockwell, and DL. Van Vranken (1999) The fluorescence of scorpions and cataractogenesis, Chemistry and Biology, 6:531-539.
Cell Pressウェブサイトより閲覧可

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